夕張問題

【2007年8月8日】


 昨年、夕張市の財政破綻が明らかとなって以来、明日はわが身とばかりに自治体の財政問題が取りざたされています。
 自治体の財政破綻とは何なのか、夕張の破綻は何が原因だったのか、夕張から何を学べるかについてみていくこととします。


●自治体の財政破綻とは何か?

 夕張市の財政破綻は平成18年度途中からの財政再建団体入りが避けられなくなったことが発覚してニュースとなりました。即ち、「財政再建団体となること=財政破綻」と認識されていることになります。

 では、財政再建団体とは何なのでしょうか?

 現在の地方自治の制度では、自治体は一定割合以上の赤字を出すと、翌年度から総務大臣(国)の同意を得た財政再建計画に従わない限り、地方債の発行ができなくなります(借金ができなくなる)。
 地方債を発行できないと、道路・河川の改修、学校や公共施設の改修などができず、予算を組むことができないため、行政は何の仕事もできなくなってしまいます。
 従って、一定以上の赤字となる事態に陥った場合、財政再建計画を策定して財政を建て直していくことになります。このように、財政再建計画に従って財政の建て直しを行っている自治体が財政再建団体と言われます。

 財政再建団体は民事再生法や会社更生法の適用を受けた企業に例えられることもありますが、債務のカットがないことが企業の再建とは大きく異なる部分です。「破綻=借金が返せなくなること」という意味とは異なるわけです。親会社の強制的な指導により立て直しを図っている企業と例えた方が正しいかもしれません。

 では、どの程度の赤字になったら財政再建団体になるのでしょうか?

 これは、都道府県では標準財政規模の5%以上、市町村では標準財政規模の20%以上の赤字とされています。
 標準財政規模とは、自治体の裁量で自由に使い道を決められる財源の大きさことです。自治体の財政上の基礎体力を表す数値とも言え、様々な財政指標の分母となる数値です (参考情報)。
 尚、江別市の場合、平成17年度の標準財政規模が224億円なので、財政再建団体転落ラインの赤字額は約45億円となります。

 ここで問題なのは一般会計の赤字額しか計算されないことです。自治体が運営・出資する病院や第三セクターは一般会計とは別の会計になっています。病院や第三セクターがどんなに赤字でも一般会計の赤字には表れません。
 もちろん、これらの赤字はいずれ一般会計の収支に影響してくることになりますが、影響が表面化するまで相当の時間がかかります。また、財政再建団体入りを避けるために、一般会計だけはなんとか赤字にしないようにやり繰りすることになります。そのため、いよいよ立ち行かなくなったときに赤字額が多額になってしまう結果になります。
 財政再建団体は財政再建を手助けするための機能のはずですが、このような問題があるために財政状況をより悪化させる方向に働く可能性があるわけです。

※ 現在、総務省では新たな地方財政健全化のための制度を検討中です。これらの制度が導入されると財政再建団体に準じる自治体も少なくないと予想されます。

●夕張は何が問題だったのか?

 夕張市は北海道のほぼ中央、札幌から車で1時間半程度の距離に位置し、市全体が夕張山地に囲まれています。
 夕張の歴史は明治時代に石炭が発見されたことに始まります。その後、多くの炭鉱が開かれ、1960年には人口12万人を抱える国内最大の炭鉱のまちとして成長しました。
 しかしながら、石炭から石油へというエネルギー政策の転換により、夕張でも炭鉱の閉山が相次ぎ、急激に人口が減少することとなりました。
 炭鉱閉山後の夕張市は観光に力を入れ、財政破綻前までは夕張メロンと映画のまちとして有名でした。1980年代から1990年代の初めにかけては、地域活性化の成功事例として注目を集めていましたが、この間も人口は一貫して減り続け(2005年には1万3千人)、過去の投資と観光施設などの負担が財政を圧迫し、ついに財政再建団体に陥ることになりました。

 夕張市の2005年度の赤字額は16.5億円、標準財政規模が43.7億円でした。赤字比率は37.8%となり、赤字額20%ラインを超え、財政再建団体となりました。解消すべき累積債務の額は353億円と計算されており、標準財政規模の8.1倍となります。
 この累積債務の比率は、平成3年に財政再建団体となった福岡県旧赤池町(現福智町)の1.3倍(累積債務32億円、標準財政規模25億円)と比較すると、いかに巨額な数値であるかが分かります。

 では、なぜ夕張市は財政破綻することになったのでしょうか?

 夕張市の財政破綻の原因は大きく3点あげられています。
 先ずは、炭鉱閉山が予想よりも早くそのショックが大きすぎたことです。特に、1981年に93名の犠牲者を出した夕張新炭鉱のガス突出事故によって北炭夕張炭鉱が倒産したことが大きな転機となりました。会社の持っていた病院、水道、住宅などを市が買い取ることになり、既に人口減少で財政状況が厳しくなっていた市にとって更なる負担となっていきます。炭鉱の閉山後処理には1979年から1994年の15年間で584億円が投入され332億円の地方債が発行されています。

 2点目は、観光事業への過大な投資があげられます。1979年に市長に就任した中田鉄治市長は「炭鉱から観光へ」というスローガンを掲げ、強力なリーダーシップのもと「石炭の歴史村」に代表される観光施設をつくりリゾート開発に乗り出しました。1980年代には観光客が大きく増加し、リゾート地への転換は成功を収めるかに見えましたが、バブル崩壊により民間資本が撤退し始めることになります。しかし、市はその後もホテルやスキー場を買い取るなど観光投資を続け、結果として、累積債務全体の5割を超える186億円を観光事業で抱えることとなりました。
 また、1990年代半ば以降、一般会計と観光事業会計の間で年度をまたいだ不正な会計操作により赤字隠しを行ったことによって、多額の債務の表面化を遅らせることとなりました。

 3点目は、2001年度の産炭地地域振興臨時措置法による臨時交付金の廃止と、小泉内閣の三位一体改革による地方交付税の削減です。2000年代に入ると赤字隠しも既に限界にきておりましたが、国からの交付金の削減によって財政再建団体入りは避けられないと判断したと考えられます。

 産炭地であり急激な人口減少に見舞われた夕張市の財政再建団体入りは避けられなかった感がありますが、バブル崩壊の早い時期に財政再建に取り組んでいればここまで傷口を広げることはなかったと思います。
 かつての主力産業が衰えた山間の町という厳しい条件下において、多額の投資を行うことにより地域活性化を図るという壮大な実験を行ったことになりますが、残念ながらその試みは失敗したと言わざる得ないと思います。

●財政再建団体による負担増の実態は?

 1993年から10年間かけて財政再建をした福岡県旧赤池町の例では、住宅家賃、公共施設利用料、水道料金、保育料などの住民負担が増えました。
 しかしながら、住民に幅広く影響する負担増は少なく、住民生活に大きな影響を与えたものではなかったようです。北九州都市圏の通勤圏に位置することもありますが、財政再建期間中にも人口が増えていることがその証明ともいえます。

 一方、夕張市は旧赤池町と比較しても累積債務が大きく、そのわりには再建期間が短いため、負担増の内容はより厳しいものになっています。

 市民への負担においては「最低のサービスで最高の負担を求める内容」といわれており、市民税、固定資産税、軽自動車税の引き上げ、入湯税の新設、ゴミ有料化、保育料の引き上げ(10年かけて段階的)、下水道料金の引き上げ、公共施設使用料の引き上げなどが決まっています。
 多くの人に影響のある税金関係の負担が増えていることが特徴的です。ただし、夕張市の算出した市民負担額の試算を見ますと、保育園料を負担している世代以外は月額362円から月額4,040円の負担増となっています。この金額だけを見ますと、今年の定率減税廃止による負担増の方がよほど大きいと言えます。

 また、小中学校の統廃合、役所の出先連絡所の廃止、市民会館・体育館・図書館などの多くの公共施設の廃止などが決まっており、市民生活に大きな影響を与えるものだと思われます。ただし、こちらも北海道内の財政状況の厳しい他市や町村と比較してどの程度のサービスレベルとなっているのかという点については必ずしも明確ではありません。

●夕張から何を学べるか?

 夕張の財政破綻から何を教訓とできるかについて考えたいと思います。

 財政面から見た破綻の原因はある程度判明しており、身の丈にあった財政運営が最も重要であると言えます。仮に夕張市が不正な会計操作を行っていなかった場合、もっと早くに財政破綻が判明していると考えられ、既存の財政指標の悪化にはやはり注意が必要です。
 不正な会計操作については、監査の重要性が改めて認識されるとともに、監査の手法自体についても改革する必要性があると言えます。

 夕張市の場合、解消すべき赤字額が大きすぎるため住民負担は比較的厳しいものがありますが、旧赤池町の例と合わせて考えると、自治体の財政破綻がそのまま住民生活の破壊につながる訳ではないと言えます。
 財政再建団体入りを避けるために無理な財政運営を行うよりも、積極的に財政再建団体の制度を活用する方が負担が少なく、結果として住民にとって良い結果を残す可能性があるとも言えます。

 夕張破綻の原因について、財政面での分析はある程度進んでいますが、1990年代以降に財政状況が厳しくなっていくなかで、なぜ市長が方針展開できなかったのか、なぜ行政内部でのチェックが働かなかったのか、なぜ議会のチェックが働かなかったのか、なぜ住民は市の状況を十分に理解することができなかったのか、などについては十分な解明がなされておりません。夕張問題の本質はこの部分にある言え、今後の検証を待つ必要があります。

 最後に、日本全体の借金の状況は、夕張市の直面している状況よりも悪化していることを指摘したいと思います。財政破綻前の夕張市の市民と比較すると、国の財政状況についてより多くの情報を国民は得ていると考えられ、日本の将来に対してどのような判断を下していくのかは国民一人一人にかかっていると言えます。





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