はじめに

前回2019年の江別市長選挙の投票率は52.2%となり、過去最低を更新しました。
今回、多くの皆様に、江別の課題について知ってもらい、自分事として考えてもらいたいという想いで、この冊子を作成しました。
戦後直後に中学・高校向けに編纂された教科書には、「ほんとうの民主主義では『政治』はすべての人の仕事でなければならない。多数の有権者が無関心でいることは、自分たちの運命をおびやかすことになる」といった内容が記載されています。今まさに、その意味が問われているのではないでしょうか。
「江別の論点」では江別にとって重要と思われる4つの課題を取り上げ、それぞれの課題について、論点が分かりやすくなるように、2つの異なった観点からの意見を紹介しています。
皆様お一人おひとりが江別の課題について考え、そして周りの人と議論して頂く一助にして頂ければと思います。
是非、あなたの考えをお聞かせください。

本ホームページは、冊子「江別の論点」を再編集したものです。

市立病院の論点

市立病院の経営はどうすれば良いのか?

江別市立病院は地域の主要な医療機関の1つとして重要な役割を担っていますが、運転資金の借入により債務超過に陥っているなど病院経営はうまくいっておらず、持続可能な医療体制の提供が危ぶまれています。

将来にわたって、地域の医療を守っていくためには、どうすればよいのでしょうか?

意見1

医療は、ごみ処理・消防・上下水道などと同様に、社会の基本的なインフラであり、市の責任で守っていく必要があります。地域の中で必要な医療が提供できているか否かが重要であり、病院経営だけに焦点を当てるのは適切ではありません。
経営再建については、現在、中期経営計画に沿った取り組みを進めており、収支が改善するなど成果が出てきています。現状の取り組みを見守っていくことが求められています。
市立病院の経営は黒字化が目的ではなく、地域の医療を守ることが目的です。市立病院という医療資源を失うことは、市民が地域で安心して暮らし続けていくことにとって非常に大きな損失となるため、収支の赤字は市の責任で補填していくべきです。

意見2

医療が重要な社会インフラであることは間違いありませんが、日本における医療の提供は、行政だけでなく、民間の医療機関も重要な役割を担っています。特に、札幌圏は、医療サービスが充実している地域であり、公立病院が唯一の総合病院であるような地方と江別では状況が異なっています。
市立病院は、長年にわたって赤字傾向が続いており、過去の経営再建の取り組みもことごとく失敗しています。残念ながら、現在の再建計画が上手くいく保証はありません。
市財政の一定の負担の範囲内で市立病院が経営できるのであれば問題ありませんが、人口規模から考えても現状は大きすぎる負担になっています。更なる赤字補填が求められるのであれば、市立病院として経営することを断念し、民間に経営を任せるべきです。

岡英彦の視点

現在、市立病院では、2020年度からの3か年の計画による経営再建の取り組みが進められておりますが、新型コロナの影響により、経営状態の実態が掴みにくくなってしまっています。新型コロナの補助金を除くと、収支は赤字となっており、今後の先行きは依然として不透明なのが実態です。
現状の病院のベッド数やそれに伴う職員数は、病床利用率から見て過大となっており、先ずは適正な規模に病院を縮小する必要があります。
また、経営の自立性をより高めるためには、独立行政法人への移行を早期に進めていく必要があります。一方、将来にわたって公立病院としては経営が立ち行かないことが明確になった場合には、民営病院と統廃合を行うなど公立病院に頼らない形で地域医療を守っていく必要があります。

参考になる情報

『江別市立病院の役割とあり方を検討する委員会』答申書・第2次答申書
『江別市立病院経営再建計画』令和3年3月

市役所建て替えの論点

市役所の建て替えはどうすれば良いのか?

1966年に建設された市役所は老朽化が進んでおり、震度6強以上の地震で倒壊の恐れがあります。現庁舎のおよそ3倍の大きさとなる2万平方メートルの新庁舎を旧江別高校跡地に建設する方向性が示されています。しかしながら、140億円と概算されている建設費用の財源確保の見通しは立っておりません。

市役所の建て替えについてどのように考えれば良いのでしょうか?

意見1

災害はいつ起こるか分からず、災害時に市役所機能が維持されることは大変重要なことです。耐震性の不足している市役所は一刻も早く建て替える必要があります。
老朽化しており建物が分かれている市役所の不便さなどから、市民アンケート調査でも市役所建て替えについて多くの市民が理解を示しています。
財源の不足を補うため、市では国に対して有利な借入ができるように要望を行っており、当面は要望活動を続けていくことが重要です。
また、建て替えに向けて、財政支出を抑えて、本庁舎整備のための基金を積み増していくことが求められます。

意見2

現在の市役所に耐震性の問題があり、建て替えが必要なことに異論はありません。
しかしながら、市役所を建て替えたからと言って、人口が増えるわけでも、企業誘致が進むわけでもありません。人口減少が進む中で、140億円の費用を市役所建て替えにかけることは、将来世代への負担が大きすぎます。
市役所の建て替えについては、従来のように市で実施するのではなく、民間事業者からの提案を広く募り、民間からの資金調達により、商業施設やマンションなどの開発と一体化するなどの工夫を行うことが求められます。

岡英彦の視点

現在試算されている140億円の建設費は、江別の財政力から考えると大きすぎる負担と思われます。仮に140億円を市役所建て替えに費やした場合、建設費の借り入れ返済のために将来の公共事業などを減らすことに繋がり、市民にとって決して良い結果とはなりません。
(市立病院の経営が厳しい理由の1つが、必要以上に高価な建物を建ててしまったことにあり、この教訓を忘れてはいけません)
最小限の機能とした場合の建設費用の再見積もりや、リース方式での建て替えなど、あらゆる手法を駆使して、建設費用を抑える努力をすべきです。
市民意見として江別らしい庁舎を期待することは理解しますが、財政の状況を把握できる市政関係者こそ、冷静な議論を行う必要があります。

参考になる情報

『江別市本庁舎建設基本構想』令和5年3月

除排雪の論点

十数年に一度の大雪にどのように備えるのか?

2021年から2022年にかけての冬は、自然に積もった雪の深さである積雪深が過去最大の172cmとなる大雪に見舞われ、市民生活に大きな影響が出ました。数十年の長い期間で見ると雪の降る量は減っている傾向がありますが、2005年や2013年など十数年に一度は積雪深150cmを超える大雪となっています。

今後の大雪にどのように備えれば良いのでしょうか?

意見1

冬の間に市民生活に支障がないように除排雪を行うのは市の責任です。江別に暮らし続けるためには、今回のような大雪でも例年通りの除雪が行われることが必要です。大きな河川の堤防が百年に一度の水害にも耐えられるよう整備されているように、災害級の大雪に対する備えが求められます。
例年の積雪深が120㎝を超える岩見沢市では直轄機動班という通常の除雪業務とは独立した組織を作っており、江別市でも同様の対応が求められています。
これまで以上の除排雪予算が必要となりますが、他の行政サービスの削減、又は除排雪用の特別税を設けるなどしてでも財源を確保すべきです。

意見2

雪の積もる量は毎年大きく異なるため、十数年に一度レベルの大雪に備えた体制を常に整えておくことは財政負担が大きくなりすぎる懸念があります。雪の降らない地域と比較すると現状でも除排雪に多くの財源を振り分けており、これ以上の負担を行うことは他の行政サービスの低下を招くことになります。
生命に関わるような大雪の場合は、自衛隊の派遣要請も可能であり、江別市のみで全ての想定に備えるのは限界があります。
その年の雪の少ない地域からの応援をスムーズに行えるようにするなど、道内の他の自治体と協力する体制を整えていくことが必要とされています。

岡英彦の視点

今シーズン(2022-2023年)の降雪量と積雪量は、平年より少なくなりましたので、過去最大の積雪量となった昨シーズンと比較すると、除排雪への苦情も少ない結果となりました。
特に、昨シーズンの大雪を踏まえた新たな対応として、積雪の少ない12月から雪堆積場に繋がる路線やバス路線などの優先道路の排雪を実施するなどして、排雪を強化したことは、大きな効果があったと思われます。今後も、主要道路のこまめな排雪を継続していく必要があります。
一方、作業量の増加、労務単価の上昇により、除排雪費用は、小雪傾向だったにも関わらず平年から比べると増加しています。今後も、更なる労務単価の上昇が見込まれることや、除排雪に関わる作業員の人手不足が見込まれることから、先ずは、現状の体制を維持していくために、優先的な予算付けやオペレータ担い手確保策を考えていく必要があります。

参考になる情報

『令和3年度の大雪に関する検証結果報告書』(2022年11月)

ベッドタウンの論点

ベッドタウンからの脱却を目指すべきか?

1960年代の大麻団地の開発以降、江別市はベッドタウンとしての特色を強くして発展を続けてきました。暮らしやすいまちとしての評価は高い一方、商工業の面での弱さが指摘されることもあります。

将来の人口は減少していくことが予想されている中、どのような方向を目指すべきでしょうか?

意見1

寝に帰るだけのまちでは寂しいです。
地域を活性化させるためには、住む場所だけではなく、働く場所の確保が必要です。江別の特色の一つは学生が多いことですが、卒業後にそのほとんどが江別を離れてしまっているのは問題です。
周辺自治体と比較しても工業施設が少ないため、工業団地を新たに造成し、企業を誘致することが必要です。企業の誘致は税収増にも繋がり、他市と比較して弱いとされている江別の財政力を向上させることができます。
ベッドタウンからの脱却を目指すべきです。

意見2

日常の暮らしがある、うるおいのまちを実感しています。
現在の良好な住環境を維持することが大切であり、札幌圏の中で特に子育て世代に住みやすいまちを目指すべきです。
工業団地を造成して外部から企業を誘致しても、地域内の経済循環には繋がらないと言われており、費用対効果に疑問があります。
外部からの企業誘致に頼らなくても、働く女性や働く高齢者が増えることで税収増に繋げることができます。
ベッドタウンとしての更なる充実を目指すべきです。

岡英彦の視点

ボールパークや半導体工場の誘致など、近隣市の派手なニュースに目が向いてしまうのは理解できますが、このような全国規模の施設の誘致は運の要素も大きく、一発逆転を狙うのではなく、自分たちの足元を見つめることが重要です。
ここ数年、市外から江別への転入は好調に推移しておりますが、今後も持続的に一定の転入を維持していくことは江別のまちの将来にとって大変重要です。転入者から選ばれるまちの要素として、何が重要なのかを常に考え、政策として実行していくことが必要です。特に子育て政策は、評判に実態が伴っていないと指摘されることが多く、優先分野として必要な事業に予算付けを行っていくことが必要です。
商工業向けの新たな土地開発については、工業用地については江別東IC周辺、商業用地については江別西IC周辺など、ポイントを絞った対応が求められます。

参考になる情報

『七光星に輝きを ニセコのキセキ・札幌集中のリアル』北海道新聞社(2022)